第1章 巡る運命

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 それもそのはず。彼女は、弘樹の父であるアルビオン・ラインハルトの娘であり英国の財閥のお嬢様。  しかも日本語は完璧。  一体父が今まで何をしていたのか考えるだけで頭痛を覚え、母は母で、可愛らしい義理の娘が出来たと喜んでいたので拍車をかけた。  ともあれ、わざわざ英国から尋ねてきたのだから追い返すわけにもいかず、以来、アリスは安藤家にて暮らしている。  弘樹も時間はかかったがアリスのことを義妹と思えるようになり、今では結構仲良くやっている。 「お風呂とご飯、どっちにする?」 「とりあえず風呂に入るよ。こっちの生活には慣れたか?」 「ええ。もう二年も経つのよ? 義兄さんこそ、数学と理科は大丈夫?」 「うっ……まあ、数学が出来なくても生きていけるさ。親父の資産が無くても、な」  弘樹の表情は少し重い。  現在、安藤家はラインハルト家の資産によって生活をしている。  さすがに豪邸を建てるようなことはせず、あくまでも貧しくない程度の支援に止めているが、それでも気が引けることには変わらない。  何度も支援はやめるようにアリスに説得した弘樹だったが、当のアリスは、家族なのだから父の資産を使うのは当然だといって聞かないのだ。  とはいえ、おかげで道場での鍛錬に時間と力を注げているのだが……。  アリスが用意していた着替えを受け取り、温かい湯に浸かった。  湯気で白くなる視界の中で弘樹は思案を巡らせる。
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