第1章 巡る運命

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 道場のこと、アリスのこと、そして理想世界のこと……。 ――理想世界……できればもう一度行ってみたいな。みんな、元気にしているかな? 親父が作り出した世界……人々が目指した理想郷……俺もそれに惹かれた一人か。いざ炎が使えなくなると結構不便だったな。別に悔んではいないが。  白い天井を見上げて考えていた弘樹はすっかりのびてしまい、頭をクラクラさせながら風呂から上がった。  着替えを済ませ、食卓に着くと美味そうな夕食の匂いが鼻をくすぐる。  台所では母とアリスが楽しそうに料理を作っていた。  来たばかりの頃は野菜も切れなかったアリスだったが、今となっては一丁前に料理が作れるようになり、最近ではお菓子作りに熱中している。  さて、夕食が出来上がったようだ。 『いただきます』  三人で手を合わせ、食事を始める。魚の焼き具合も味噌汁の辛さも丁度いい。 「おお、美味しいな!」 「よかった。義兄さんは、本当にワショクが好きなのね」 「ジャパニーズだからね。でも、たまにはカルナイン料理も食べたいかな」 「……やっぱり戻りたいのね。お父様の世界に…………私も行ってみたいなぁ。ナイト、元気にしているかなぁ?」  しみじみと、彼女は黒い少年の顔を思い出しながら呟いた。 「ふふふ、すっかりお父さんに影響されたみたいね」  母は弘樹とアリスを見ながら微笑む。なんだかんだ言って、皆、アルビオン・ラインハルトという人間が憎めないのだ。  夕食を終えた弘樹は自室に戻って休息を取る。
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