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相変わらず整理整頓が行渡った部屋の机の上には、電灯の光を反射して輝いている星型の宝石が指輪入れの中に大切に納められていた。
かつて弘樹が愛した少女の形見……こうして見る度に、彼女の優しい笑顔を思い出す。
否、それだけではない。
この宝石を見るだけで、弘樹の心は、キヌアで満ちてしまうのだ……。
時刻は八時半。まだまだ眠るには早い時間なので、イスに座り、どうしたものかと考えているとドアがノックされてアリスが顔を覗かせる。
「義兄さん、ちょっといい?」
「どうした?」
「カルナイン語で分からないところがあるの。教えて欲しいのだけど……」
「いいぞ。ちょうど暇をしていたし」
自室からアリスの部屋に移動した弘樹は、その積み上げられた本の多さに舌を巻く。
しかも殆どがアルビオンの残した魔術書の類であり、中にはカルナインからこっそりと持ち帰った書物まであった。
今まで父の私室に入ったことなど殆ど無かったため、まさかこんな本が大量にあるなど思いもよらなかった。
さて、アリスが机に広げた本を覗いた弘樹は思わず吹き出す。
「な、なんで笑うのよ!?」
「だってそれ、三大英雄物語じゃないか!」
「知ってるの!?」
「向こうではミリオンセラー。そして、親父が登場して大活躍する半フィクション」
「そうなの!? じゃあ、ここはどういう場面?」
「どれ……」
本を受け取ってカルナイン語で書かれた文章を読んでいく弘樹の表情は、段々と暗いものへと変わっていく。
その場面は、英雄アルビオンの仲間であるフェリアルが後世のために予言を残すシーンだった。
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