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「逸野海冬、だっけ?」
「はい」
メイド服は、自分の名前を知っていたのに驚いた様子だ。
俺より学年が一つ上で、地味だが才色兼備。しかし、両親の経営していた会社に銀行が入り、卒業目前で退学したらしい。
「飛んだって聞いたけど」
飛ぶ、とは親が経済的に学校に通わせられなくなり、公立校に転校させることである。
メイド服は一つ頷く。
「で?」
「休学にしてもらったんです。また学校に戻りたくて」
「あんたの学力なら授業料免除でよかったんじゃないか?」
確か全国模試で五十位くらいだったって騒いでいたのを覚えている。
「でもやっぱり私ひとりだと無理なので、バイトしてお金貯めてから復学したいな、と思ったんです」
「へえ。そこまでして復学したいんだ」
「……はい」
声は弱かったが、迷いのない返事だった。
「俺に頼りたいってことか」
「ここで働かせてもらえませんか?」
「俺は高校生。親に頼めば?」
「一人暮らしで両親と連絡を取らない人って染矢さんしか知らなくて」
「親に内緒で雇えっていうことか?」
こくん、と頭を下げる。
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