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「…何してんの、シズちゃん」
路地に横たわる人影に、死体か何かかと喜々として覗いて見ると見慣れた顔がそこにあった。
虚ろに開かれた目がこちらを向く。心なしかその顔は紅潮してるようにも見えた。
「ねえ、生きてる?」
「…、んだよ…ノミ蟲か」
「見るなりそれはないと思う。何、酔っ払ってんの?」
「うるせえ、放っとけ」
「うわひど、せっかく親切心で聞いてあげてるのに」
俺の言葉に舌打ちすると、そいつはふらふらしながら立ち上がり、覚束ない足取りで向きを変える。
「何処行くのさ」
「手前にゃ関係ねえ」
「…あっそ。勝手にすれば」
ぴしゃりとはねつけられた言葉に、多少なりとも腹立たしさが込み上げる。
一人むくれるようにして踵を返すと、間もなく背後からドシャリと倒れるような音が聞こえて振り返ればそこにいたはずの彼の姿はなく、
案の定俯せに倒れているシズちゃんを見遣り、倒れるの早ッ、とツッコミを入れながらそいつの頬を軽くつつく。
「、熱っ…」
指先に触れた頬は思いの外熱く、もしやと思って額に手を添えると、これもまた案の定というか何というか。
まあでもいい機会だしこれで放置すれば死ぬかなーなんて思ったりもしたけどそんな1ミリしかない良心でもやっぱり痛むもので、
そもそも俺にまだシズちゃんにかける良心なんてものが存在したことに驚きつつその1ミリの良心とやらにしたがってみることにした。
「……おっも、」
担ぎ上げたその体は既に投げ出されていて、大の大人の全体重がかかれば重いことこの上ない。
事実俺はマッチョでもシズちゃんみたく馬鹿力があるわけでもないので、細身の大人一人でもよろよろと千鳥足で歩くこの始末に顔を歪めながらも、ままならない足を前へ前へと運んでいくので精一杯だった。
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