戯れノンシュガー

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間もなく家、というより池袋の事務所につこうとしていた頃にはもう脚が震えて膝が折れそうだった。 …長かった。 心の底から出た言葉。 エレベーターに乗りながら、はぁ、と溜息をついた。自分にこんなにも自然な溜息がつけるとは驚きだ。 引きずるようにして事務所に上げ、熱い体をベッドに放り込む。 肩の重みが完全に消え、ふっと膝から崩れ落ちる。自分の体力のなさに泣けてきた。ちょっと鍛えてみようかな。 そんなことを考えながら、ベッドに沈むそいつを見遣り、また額に手を当ててみる。 「…体温計、あったっけ」 自分も割とタフな方だし、この年になってまで風邪を引いたりもしないから、こんな時どうしたらいいか分からない。 とりあえず熱を測ろうと、体温計を探しにかかり、そこでちょっとした冒険をすることになるが、そんなことはどうでもよくて。ボロボロになりながらもようやく見つけた体温計をそいつの脇に宛てがった。 「……39度、6分」 どんだけ拗らせたんだよこいつと悪態をつきそうになる自分を抑え、とりあえず寝苦しくないように胸元を開けてやる。 はいそこヤラしいとか言わない。 額に冷えピタを貼って何処からか持ってきた氷枕を詰めて敷く。 これでとりあえず様子を見ようと、ベッドの傍らにまでパソコンを持ち出しわざわざそこで仕事をするという、何とも自分が見ても本当に笑える姿なのだが、あえて友達思いということで。 「…まあ、シズちゃんを友達と思ったことは無いけどねえ」 ぽつりと洩れた独り言に応える声はなく、静かな室内にはパソコンのキーボードを打つ音だけが響いていた。 _
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