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この教室は1年に1回使われるかというぐらい使用頻度の少ない部屋。玲也と学校で会議をするときはいつもこの部屋だ。普通の教室のように備え付けの机も椅子も無い、だだっ広い部屋。畳まれたパイプ椅子と折りたたみ式の机が、場所をとらないように積まれて置かれていた。
2脚出してある内の1脚のパイプ椅子に近寄り、埃を掃ってから座る。
鞄の中から携帯ゲーム機を取り出して電源をONにする。
しばらく経った後、扉をノックする音が部屋に響いた。
「今開ける」
ゲームを一旦止め、椅子にゲーム機を置く。
扉の鍵を開けて、扉自体は開けずに椅子に戻り、ゲーム機を取って座りなおす。
「よっ」
片手を上げて軽く挨拶する。
「ん」
匠祐はゲームを続けたまま気の抜けた返事をした。
向かいのパイプ椅子に座ろうとしたが、鞄が邪魔で座れない。仕方なく部屋の隅からパイプ椅子を取ってきて広げる。
広げたパイプ椅子に座りながら口を開いた。
「で、次は何を盗むんだったっけ?」
「前から言おうと思ってたけど、救けるって言って欲しいな」
ゲームの画面に視線を落としたままだったが、強い思いを感じた。きっと、匠祐の中に今やっている行為は悪ではないという気持ちがあるからだろう。
「あぁ…そうだな。で、今度は…誰を救けるんだった?」
「『月下の少女の憂い』」
匠祐はずっと前から知っていた言葉を、何の感情も込めずに反復するように言った。
「そうだそうだ。で、見取り図はどうすんだ? 経路とかの確認に必要だろ?」
「あ~…下見のときに取ってくるわ。無かったら書く」
「お前な――」
髪の毛を掻く。
「――いくらなんでもノープランすぎるだ…」
「うわぁぁ~やられた~」
仰け反りながらそう言い、匠祐はゲーム機の電源を切った。そして大きな目を真っ直ぐこっちに向けた。
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