第3章

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 むらびとたちは、わかに訊(たず)ねた。  ――あの見事な錦(にしき)は、どのようにしたら織ることができるのか。  しかし、わかには答えようがない。  ひめが奥の間に籠っている間、そこに立ち入ることを、わかは許されていない。  しかし、そんなわかの答えに、むらびとたちは納得しなかった。  ――そもそも、さかいの者は、むらのために力を尽くすものではないか。    われらは、金や珍物を欲しておるのではない。    われらは、さかいの者どもに、ほどこされることなんぞ望んではおらぬ。    美しい糸やよい織りかたの工夫がついたのなら、    その技をむらにもたらすのが、さかいの者の役目ではないか。  里の外にあって、よいものは入れ、あしきものはふせぎ、里を護ること。むらの内にあって、ひとびとの平安で豊かな暮らしを保つこと。それがさかいの者の役割であり、それを果たしうる力ゆえに、かれらは、なかば畏れられ、なかば尊ばれ、なかば忌まれてきた。  しかし、今、商人たちは里に入らない。  豊かな暮らしの種は、さかいの小屋に隠匿されたままである。
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