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わかは、このところ、ひめが奥の間にこもる新月の前後に、薬草の採取にでかけることにしていた。さかいの小屋を出て、西の川沿いに川上に向かい、ちょうど里を迂回するように北の山岳地帯に入る。西から入る道筋には、むらの近辺ではなかなか手に入らない珍しい薬草が手に入るからである。
山岳地帯の西の一帯は、里人たちが炭焼きや山菜の採取のために入る、よくととのえられた南麓の森とはずいぶんと異なる相をしている。そこは、人の手がほとんど入っていない豊かな原生林で、さまざまな野生の棲みかであり、おさえきれない生命の衝動にはちきれそうになっている大地の胎(はら)である。
しかし、今回の旅で、わかは異変を感じた。命に膨らみきっているはずの山が、妙にしぼんでいるように思われた。山に、いつでも湛(たた)えられていたはずの息吹が感じられない。現に、いつもなら何なく見つけることのできる薬草が見つからない。異変を感じるとともに、胸騒ぎをおぼえたわかは、予定を切り上げて急ぎ帰路に就くことにした。
急いだといっても、かなり深く山に入っていたこともあり、さかいの小屋まであと数刻ほどというあたりまで戻った頃には、すでにすっかり日が暮れていた。川筋で一息入れて、ふと川下のほうに目をやったわかは、何かが異様に明るく南の空を染めているのを見た。
さかいの丘で何か忌まわしいことが起きている。
そう感じたわかは家路を急いだ。
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