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わかは、ひめの導きを信じ、川に沿って北へ向かうことにした。
月のない夜、星灯(あか)りを頼りに、風のない静かな夜道、ひめを案じて家路を急いだ道を、今は傷つき命の尽きようとしているひめを背負って、ふたたび北の山岳地帯に向かって歩いた。
抱えたひめの身体のわずかな温もりと、耳元に感じるひめのかすかな息遣いだけを支えに、わかは憑(つ)かれたように、ただただ歩いた。
東の空がわずかに白みはじめた頃には、すでにいくつもの峠を越えて、深い山懐に入っていた。やがて、小さくなだらかな丘にさしかかったとき、ひめの身体が急に重くなったように感じた。ひめの温もりも急速に遠のいていく。わかはうろたえ、背中のひめに声をかけた。すると、ひめがかすかにほほえんだような気がして、声が聞こえた。
――ここに。
わかは、ひめをそっと下して、横たえた。
なんと荒れた丘。こんなところで、ひめに何をしてやれるというのだろう。
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