第1章

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 彼ら――ぢぢとその妻――は「むら」の一員にはちがいない。だが、「むらびと」ではない。といって「よそもの」でもない。  ひとつには、「ぢぢ」も「ばば」も医術という特殊な技能をもって、むらびとの病や怪我の治療にあたったり、健康についての相談ごとにあずかったりすることでむらの営みに参加しているわけで、他のむらびとたちのように、日々ともに田畑を耕して暮らすわけでもなく、むらはずれの小屋で薬草を採取したり栽培したり、なにやらあやしげな実験をこころみたりしている・・・つまり、病や怪我がなければ、むらびとたちも、わざわざ「かわべ」あるいは「さかい」までやってくることはない。  また、彼らは境に暮らしているわけで、そこは前述のとおり、外からむらにやってくる者たちが必ず通る道であるから、彼らは「よそもの」や「まろうど」と最初に接触する、そういう立場でもある。丘から川筋を見下ろすというのは、一面では、むらに入ってくるよそものを見張っているようなものでもある。外からやってきた者たちにとって、彼らの小屋は、川を渡ると最初に丘の上に見える「むらびと」の小屋であり、むらびとたちから見れば、西の丘に建つ「ぢぢさま」の小屋の向こうは異界であり、小屋は異界からやってくる者をいったんとどめおく関所である。
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