第1章

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 もっとも、ぢぢさまの小屋に日々出入りしている「むらびと」もいる。今年十歳になる少年である。はやくに親を亡くして、むらびとたちに養われてきたのだが、ごく自然にぢぢさまたちとむらびとたちの間をつなぐ伝令のような役目を負うようになった。むらに病人や怪我人があったり、何か相談ごとが生じたときには「かわべの小屋」に走る。むらに来訪者があったときは「さかいの小屋」からむらおさのところに走る。頭もよかったのだろう、ぢぢさまやばばさまの仕事――薬草採取や医療――にも興味を持つようになり、今では、ときに仕事を手伝うこともあって、少年は、なかば「さかいの小屋」の住人となっている。むらびとたちも、この子がいずれぢぢさまの仕事を受け継ぐのだろうと、これもごく自然に考えていて、最近では少年のことを「さかいのぼう」などと呼んでいる。実のところ、そのようにして「さかい」の仕事は、もうずいぶんと昔から受け継がれてきたらしいのである。
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