第1章

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 さて、ある昼下がり、ぼうが小屋に駆け込んできた。  川上から人が流れてきたというのである。川べりで、ばばと一緒に採取した薬草を仕分け、洗っていたところ、川上から人が流されてきて、ちょうどさかいのあたりが浅瀬になっているのでひっかかった。なんとか岸辺にあげたが、ばばとぼうだけでは小屋まで連れてゆかれないので、急ぎ、ぢぢを呼びにきたのだと。 小屋に運び込まれたのは若い女だった。まだあどけなさを残す面差。しかし衰弱していながら、あごから胸もとにかけてのふっくらとした豊かさは成熟をひそませている。ばばは、ひとめで少女が身重であることをみとめた。あとひとつきほどで月が満ちるはずだと。  それにしても、どれほど川を流されてきたのか。おそらく、川のはるか上流、北の山々の向こうの遠くのむらから流されてきたものとみえる。そういえば、一昨日あたり、川に、黒く焦げた枝や葉が流されてきた。北のほうで山火事でもあったかと思われたが。
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