―壱―

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 あれから3年が経ち、警察の不可解な事件は跡形もなく抹消された。  でも、抹消された事件の当事者は今尚、心の キ ズ を消し去ることは出来ないでいた。  そして、3年が経った今、男が一人墓前に立ち決意する。 「兄貴、悪いけど…あいつ貰うから…」  鋭い目はノンフレームの眼鏡に隠され、若い頃から染められ続けた髪は自然な黒に戻されている。影を背負ったような美貌を持つ、この男の名を中田 愁(ナカタ シュウ)という。 「…涼…。」  左の薬指にはキラリと光るシルバーリング、長い髪は窓からの風にさらりと揺らめき、一見儚げな雰囲気を醸し出すが強い意思を持ったような瞳。箱入り娘のようなこの女を、名を沖田 李華(オキタ リカ)という。  愁の立つ墓の下に眠り、李華の思い描く幸せの中心に居るのは中田 涼(ナカタ リョウ)享年29歳。愁の兄であり、李華の恋人だった。 .
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