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「ただいまー。」
凍えた手でドアノブを回しながら、命は言った。
「おかえり、早かったね」
家内は、年の離れた姉、殊美(ことみ)一人の声が帰ってきただけだった。
殊美は今年で高校を卒業する。
今は試験やらから解放されて、しばらくは楽ができている、と本人は言う。
はぁ、と息をつく命。
ふと、鼻腔を擽る柔らかい匂いを感じた。
「お姉が夕飯作ってるなんて、なんか久々」
命が殊美のほうに目を向けると、彼女は鍋で何やら煮込んでいるところだった。
「嫌かい?」
自嘲気味に、殊美は笑った。
殊美には、料理に関して僅かなコンプレックスがある。
彼女が作る料理は、いきおいどうしても薄味になる。
命自体は、むしろ姉の薄い味付けは好きなのだが。
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