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陽が落ちるまで、毎日のようにここでテニスをしていた。
夏になると暑くて、真っ黒に日焼けして。
練習はつらくて、きつくて、大変なことも多かったけど、それでも今となっては楽しかったことしか思い浮かばない。
夏休みに練習を抜け出し、近所のコンビニまでスコート姿でジュースを買いに走ったこと。
それが先生にバレて、全員でコート内に正座させられたことを思い出し、葵は思わず笑う。
「葵」
ふいに名前を呼ばれて振り返ると、瑠依が微笑みながらこっちを見ている。
「瑠依」
葵は思わず走って、瑠依の元に駆け寄る。
「ちゃんとテニスコートにさよならしたか?」
瑠依が優しく言う。
「うん。ちゃんとさならとありがとうを伝えたよ。
瑠依は?
ちゃんとグランドにさよならした?」
葵は瑠依を見上げる。
「ああ。
グランドにもゴールにもサッカーボールにも。
全部にちゃんとさならとありがとうって伝えた。
教室にも、体育館にも、校舎にも。全部にな。」
そう言って、瑠依は3月にしては少し強い日差しに、眩しそうに目を細めながら学校全体を見渡す。
葵も瑠依の目線を追いかける。
―3年間共に過ごした中学校。
建設されてから100年以上たっているので、ちょっとボロいが葵にとっては宝物のような時間を過ごした大切な大切な場所だ。
しばらく2人で並んで学校を見ていた。
「帰ろうか。」
「うん。」
瑠依の言葉に葵は頷き、2人で校門に向かって歩き出した。
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