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豪雨の夜。
『ファイアーウォール通過…ロック01、解除…ロック02、解除…、』
暗がりの部屋には、キーボードを打ちつける音と雨音だけが響いている。その男は、ディスプレイに映る文字を喜々と見つめていた。
『BOUSver5.2、侵入開始…』
赤いラインが左から右へと流れていく。
男は満足気に鼻を鳴らすと、背伸びをして、イスの背もたれに寄り掛かった。
『ちょろいもんだな。』
男は心の中で呟いた。この瞬間が一番楽しい。この、成功を確信した瞬間が。
と、急に首筋に痛みが走った。長時間のパソコン作業に疲労が出たのだろうか。彼は痛む首をなでた。彼の触れた場所、そこには、竜のような刺青が掘られている。
「まさか、刺青が痛む訳ないしな。」
男は苦笑いをした。
その直後だった。
耳障りなブーピー音がパソコンから鳴り始め、ディスプレイ一杯に『Error』という文字が赤く点滅していた。
「なんだ…っ!?」
男は勢いよくイスから立ち上がる。
『こんなプログラム、作った覚えはないぞ。』
男は舌打ちをしながら、キーボードを叩く。しかしどう動かそうにも、ピクリとも反応を示さない。
「くそっ!何かどーなってるんだ!」
意味が解らず、男は慌てふためく。と、前触れもなく画面が切り替わった。
「!?」
『このパソコンのデータは全て消去されました。なお、データの一部は警視庁の捜査4課に送信されます。ICO』
男は愕然とした。
「そんな…、バカな…。」
そう呟き、落胆した表情でその場に崩れ落ちた。
彼がパトカーのサイレンを聞くのは、その数分後だった。
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