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昨夜の豪雨は嘘のように、空は澄み切っていた。
コンビニの深夜バイト明け。朝日が目にしみる。
ぼーっと、寝ぼけながら掃き掃除をしていると、ふいに大きなアクビが出て来た。
手で隠すのも面倒くさくて、そのまま大口を開けたら、通りすがりのOLさんに見られてしまった。
うわっ、最悪…。
軽く落ち込んでいると、店内から先輩の店員が話しかけてきた。
「おーい、ヒビキ君。時間、時間。とっくに6時すぎてんぞ。」
「えっ…、」
腕時計を見れば、長針はすでに5分を差していた。
「あ、今上がります!」
集めたゴミをゴミ箱に突っ込むと、響は急いで店内に戻った。
「あぁ…疲れた。」
タイムシートに退出時間を入力して店内に戻ると、若いサラリーマンが新聞配信機の前で困った顔をしていた。
「あの、ジャパンタイムズ、まだ配信されてないんですけど…」
男は店員に尋ねるが、それに店員も困った顔をした。
「あぁ、すみません。今日配信が遅れているみたいで…、まだ来てないんですよ。」
「あぁ、やっぱりそうですか…」
サラリーマンは仕方なさそうに、店を出て行ってしまった。
「また遅れてるんですか?」
横から店員に尋ねる。
「あ、いらっしゃいませって…響か。私服だから客だと思ったじゃんか。」
そう言って店員は営業スマイルを崩した。
『いちよう、今は客なんですけど…』
そんな事は決して口に出さず、
「で、今日も遅れてるんですか?」
"響"と呼ばれた青年は尋ねた。それに店員はうなずく。
「あぁ、しかも今回は本当にヒドい。」
店員は端末機を指差した。端末機には、配信されている新聞名と主な記事、配信された日が記載されているのだが、
「これ…、配信日が全部昨日になってるじゃないですか。」
「な、ヒドいだろ。」
響はうなずいた。
「天地がひっくりかえるような事件でもあったんですかね。」
「たぶんな。さっき来たスポーツ紙マニアのじいさんも、どこ行ってもないじゃないか!って怒ってたし。」
「スポーツ紙もですか?」
「そう。ほんと『どこよりも早く』最新の情報を伝えようとしてくれてありがとうって感じだよ。」
店員はふんっと鼻を鳴らした。
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