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「ただいま…。」
響はそう呟きながらドアを押し開けた。
スラム街の一歩手前。この汚いアパートが響の自宅だった。
「おかえり!兄ちゃん!」
アパートの奥から飛び出てきたのは、まだ小学2年の小さな女の子。妹の奏(カナデ)だ。
「もう起きていたのか。早起きで偉いぞ。」
響は妹を抱き上げた。
「だって、兄ちゃん帰ってくるのが待ち遠しかったんだもん。」
なんて愛くるしい言葉。響はハニカんだ。
ソファの上に彼女を下ろし、テレビの電源を付け、自分もソファに座る。
ちょうど朝のニュースが報道されていた。
『本日4時ごろ、東神戸区の集団居住区にあるアパートで、"BOUS(ボウズ)"と名乗る企業テロリストが逮捕されました。』
リポーターの背後には今にめ壊れそうな廃ビルが映っている。たぶん、そこはあの『集団居住区』なのだろう。(※集団居住区:スラム街の関節的な言い方)
廃ビルの周りには、『KEEP OUT』と書かれたビニールテープが張り巡らされている。
『警視捜査四課にリークされた情報から、新種のウィルスデータも発見されています。リークした人物がBOUSと何らか関係があるとして、警視庁は捜査を続行することを決定した模様です。誰が、どんな理由で情報をリークしたかは今だ不明なままとなっています。以上、現場より矢部がお送りしました。』
いい終わると同時に、突然画面が切り替わる。
この見慣れたアニメのキャラクターは…。「キューティーガール、見してね。」
そういいながら奏は笑った。時すでに遅し。リモコンは奏の手に握られていた。
奏はテレビに近付いていく。真近でみたいらしい。
「あんまり近付くと、目悪くするぞ。」
とは言ってみるものの、まったく効果なし。
すでに奏はヒロインの世界に没頭しはじめていた。オープニングの、テンポのいいアニソンがテレビから流れてくる。
「明日からあるから戦うんだ~、キューティーガール~」
奏の歌声は、音符でも浮かんでいそうなぐらい上機嫌だった。
響は、「仕方ない…」と呟きながらソファに深々と座った。
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