麩(ふ)の優越感

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少し前、 某県の某公園に足を運んだ。 公園といってもかなり広大で、緑あふれる園内は、 おおお素晴らしいじゃないのこれはッ、と感動があった。 中央付近に大きな池があり、 錦鯉がこれでもかこれでもかッと言わんばかりに群れている。 池の脇にある売店に入ると、 「鯉のエサ百円」 というものを売っていたので、 私はそれを1つ買った。 一見、中華風揚げパンのように思えるが、 手に取ってみると棒状の麩(ふ)である。 そういえば麩なんてものを久しぶりに触るなあ、 と妙な感慨を抱いてしまう。 自分が小さい頃、 黒砂糖を麩にまぶした麩菓子なるものが、 婆さんが好きで家によく有り、食べたものだが、 あれは歯応えがなくて、 子供心にも 「根性のない菓子だッ」 と怒りを覚えたものである。 しかし歯応えがないからこそ、歯のない鯉には最適のエサなのであろう。 池の縁に近付いて、 ちぎっては投げてやると、 たちまち鯉たちが群れ集まって来て、 「バボッ バホバホバホッ!」 などと音を立てて我先に食べ始める。 その貪欲な様子を眺めていると、 なんだか自分が田中角栄にでもなった気分で 「よっしゃよっしゃ。食え食え」 などと呟きたくなる。 立派な錦鯉に麩をやるという行為は、 妙な優越感を与えてくれるらしい。 たった百円で誰でも田中角栄気分よっしゃよっしゃ、 というワケである。
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