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―語ルハ、幼キ日ノ想ヒ出―
──私は幼き頃、ある人と出逢いました。
よく遊んでいたお寺の境内にいつの間にか現れたその人が、何処の誰かなんて誰も知りませんでした。
けれど、いつも楽しいお話を聞かせて下さるあの人が皆大好きで、姿を見つける度「今日は何のお話やろう」と期待に胸を膨らませ駆け寄ったものです。
そんなあの人がたった一度だけ語った、
とある一組の男女の恋物語。
動乱、と呼ばれた時代に生きた彼女たちの結末を知り、その寄り添えた日々の余りの短さに、きっと“悲恋”とはこういう事を言うのだと幼な心に思った事を覚えています。
けれど、伴侶を得て子を成した今なら分かる気がするのです。
『──二人は、幸せだった』
最後にそう言って優しく、綺麗に微笑んだ
あの人の言葉の意味が。
──お寺の境内で子供に囲まれている少年を見かけたら、そっと耳を傾けてご覧なさい。
"幸せな物語"が聴けるかも知れません──
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