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大学はとても楽しくて、私は自分を作ることすら半分は忘れていた。
そして気付いた。常に自分を作ることは必要とされず、それはただ人の信頼を失うだけであると。
必要な時は必ずあるけれど、それは最初だけで、ゆっくりゆっくり解いていかなければいけないと。
今更になって、あの子の言葉が理解できるなんて。
そして、彼に出会ったのは、長い長い夏休みが終わってからだった。
大学に入った時から有名だったその人を、初めて見たのは何となく入ったサークルでだった。
元からサボリ気味だった私に、更にサボリ気味だったその人。隣に小さくて可愛い女の人を連れていた。
「あぁ初めまして、佐牟田真希です。
水野真夜さんだよね、有名だったから名前だけ知ってた」
喋り方から驚いた。
物腰柔らかで、艶やかな声。
今までみた男と違った、自分に自信があるような仕草なんか見せなかった。
抑揚の薄い感情。鋭い目つき。でも人当たりよく、誰にでも好意を感じさせる雰囲気を醸し出している。
この人は、天然で自分を作っている。
だから私みたいに誰かに気付かれることはない。自分だって気付いていないのだから。
つんとした冷ややかな瞳は作り物で、本当はうさぎのように寂しそうな瞳をしていた。
魅力を感じた。もっとこの人を知りたい。もっとこの人の隠れた内面を見てみたい。
私の一目惚れだった。
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