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「きず……なおったからでていく」
そう言って部屋から出ていこうとするムーンをカナルは慌てて止めた。
「そういう意味じゃないんだ!」
「……?」
どこか寂しそうに瞳を伏せるカナルに、ムーンは足を止め振り返る。
「ムーン君の…………‘心の傷’……が治るまで」
「……」
ムーンは少し瞳を見開き、不思議そうに首を傾げた。
そして小さく微笑む。
「こころ?へんだよ。ぼくはそんなものナイもん」
「……、っ」
初めて見せたムーンの笑顔は、あまりにも痛々しくカナルには見えた。
カナルは絶句するが、すぐに微笑みムーンを抱きしめる。
「それじゃ、僕と一緒に心を取り戻そう。失ってしまったのなら探せばいい」
「……」
何も言わないムーンにカナルは微笑み、赤い瞳を見つめた。
「だからいつまでも此処にいても良いんだよ」
「……」
ムーンは何も言わないが、その瞳からは一筋の涙が零れ落ちた。
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