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コンビニからの帰り道だった。
一台の車が通りの向こう側で止まった。
老夫婦が乗車している。
運転は奥さま担当のようだ。
ご主人が助手席から降りてきて、何やらこちらに渡って来ようとしている。
交通量は少ないものの、スピードの出やすい道路。
「危ないな。」と思って見ていると、どうやら私のところに来たいらしい。
「私がいきますから。」
そう声をかけて、老夫婦の車に駆け寄った。
「すみません、○○病院にはどう行けばいいですか?」
どうやら道に迷われたらしい。
そう難しい道程ではないが、不慣れな場所らしく要領を得ない。
「ご迷惑でなければ、私を乗せていっていただけますか?」
仕方なくそう切り出してみたら、
「本当ですか、助かります。」
と、ふたつ返事でのOK。
「いつもはもう少し先で曲がっていたんですが、手前で折れたら判らなくなって…。 ねぇ、おとうさん。」
「そうですか…あっ、その信号を右に曲がってください。」
「いやぁ私が悪かったんだよ。 こっちを曲がっても行けると思ったんだ。」
後席からおとうさんの声が聞こえる。
「その先の信号を左に曲がれば…もう見えてきましたよ。」
「あぁ、こんなに近かったんですね、ありがとうございました。」
送ってくださるとの申し出を丁寧に辞退して、目的地のすぐ側で私は車を降りた。
老夫婦の互いを思いやる気持ちに、何となく私の気持ちも暖かくなった。
「さぁ、帰ろう。」
家まで20分、なぜか足取りが軽かった。
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