五百八十万四千秒の主成分

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       暦上は春といえども、北国の三月の夜は寒い。  橙色に霞む夜空は、今にも雪が降り出しそうで、すぐそこに雪の匂いを感じた気がした。  僕は、夜空を見上げる。  「まだ泣いてなんかいないからな、畜生」なんて、呟いてみながら。  上を向くことでしか、自分の瞳から溢れ出る液体を、隠せないなんて。  それでもなお、誰がいるわけでもないのに見栄を張る自分が、滑稽に思えてならなかった。  そうしてまた、野良犬のように吠えるのだ。  「まだ嫌いになんてなれやしないんだよ、畜生」と。  
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