1 猫をかぶった男

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この人のせいで、昨年度、営業2課の事務員は例にも洩れずに3ヶ月経たずに辞めていった。 新しい人を入れるたびに辞めるので、この席は鬼門とも言われるほどだ。 正直、4月の異動で営業2課になった時、みどりは本気で部長を恨んだ。 いくら、ずばずばと営業に向かっていくみどりと言えども、さすがに望月さんに関わりたいとは思わない。 気が強そうに見られるけど、根は小心者なのだ。 いかにも怖そうな人は苦手だ。 そこまで思考が逸れた時、枝谷くんがもう一度声をかけた。 「営業になりたいの?」 「いや違うよ。望月さんが、顧客カードを紛失してて、勝手に探してくれって言われたから探してたんだよね。そうしたら、パソコンがついたままで・・・明日の午後からの予定だった、今川商社の提案書が全くできてないの見ちゃって・・・せめて新商品の資料だけでも置いててあげようかな。とか思って・・・」 枝谷くんはみどりの言葉を遮るように大きくため息を吐いた。 「で、顧客カードは見つかったの?」 「一応。中はほとんど空欄だけど」 枝谷くんはみどりの前から新商品の資料をまとめて取り上げると、 「じゃ、みどりさんは顧客カードの入力して。僕が提案書作るから」 と、席を立って、二つ向こうの自分のデスクへ歩いて行った。
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