1 猫をかぶった男

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「みどりさんさぁ、自分ががんばればいいと思ってんじゃん。あれってすごい迷惑なんだよね。みどりさんが営業の仕事にまで手を出すでしょ。そうするから、今、5課めちゃくちゃなんだよ。頼むから2課で引っ掻き回さないでくれる?」 なんだか酷いことをさらりと言われた。 5課・・・それはついこの間まで、みどりがいた課だ。 責任感が強くて、小心者のみどりは、細かいことがいろいろ気になる。 だから、5課営業のパソコンのデスクトップの周りには、いつも無数の付箋が貼られていた。 確かに、営業のことも見えてしまうと気になるので手を出していた。 提案書も、実は作ったことがある。 アポもとったことがある。 営業が投げ出した報告書も書いたことがある。 社内にずっといなくていいのなら、多分営業だって自分で行っていただろう。 そのうち課長だって、みどりをあてにして、なにかあると頼ってきていた。 今めちゃくちゃだなんてそんな話は全く知らない。 「みんな自分の仕事を自分の責任でやってるんだよ。みどりさんが手を出してしまったら、その人はもう二度と自分の仕事としてやらなくなるよ」 ・・・確かに思い当たることはある。 けれど、みどりが手を出さなかったら、うまくいかなかったことだってある。
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