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「一緒に酔おうかな、と」
「なんで」
「なんでとかなんだとか、君は僕に対して厳しいですね」
「いや、知らないし」
「そんな泣きそうな顔して」
──嘘だ。顔には出てない筈だ。酔ったって赤くならないのに、感情を出さないようにいつも我慢してるのに。
「ね、どれにします」
「泣きそうじゃないもん」
「もう今飲んでる瓶が空くでしょう」
「私は泣かないもん」
「とっておきを出しますか」
「アルケイン」
パリン、と落ちた瓶が割れた。半分くらい飲んでいたワインの残りが床に広がって行く。血だまりみたいに見えたけど、沸き上がる葡萄の匂いが錯覚を消してくれた。服の裾に染みをかかったのも気にせずに、私はぐっとアルケインの胸に額を寄せる。あぁなんだ邪魔だなこのリボン、アルケインの熱が分からないじゃないか。なんだかヤケに冷たいし。まぁいいや、ほんの一瞬くっつくだけだ。涙を一粒落とす間だけだ。
「──…アルケイン」
「なんですか」
「千年伯爵開けてよ」
「え」
「とっておきでしょ」
「あ、あれは前にメリーメリー君に割られてから探し続けてやっと見つけたもう1本なのに…」
「開けちゃえ」
「あわぁ!」
実はさっき持ってきていたんだ。アルケインに内緒で飲んで別のを入れとけばバレないかな、なんて。止められたけどぽん、とコルクを抜いてしまう。超幻の銘柄「千年伯爵」だ。アルケインが大事に大事に寝かせてたのを知ってたけど、飲むなら今しか無いと思ったのだ。ああああああああああああああああああとアルケインが項垂れる。
「アルケイン」
「なん、です、か」
「一緒に酔ってよ」
項垂れながら途切れ途切れに答えたアルケインににんまり笑ってワインを振って見せたら、一瞬きょとんとした後で、仕方ないですねと言って私の隣に座った。
─────
とっておきは君の為にとっておいてたんだ。(でももっと特別な日に開けたかったのに)(え?なに?)(いえ、さぁさぁぐーっと)
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