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きらりと光る赤い石。
「あ、あ、アルケイン様!」
「なんだい」
「せ、戦場で見つけたもので、珍しいものなのでアルケイン様に献上致しますっ」
フレイム石、だった。敵を倒した後で見つけたから、きっと相手の鎧やら盾やら剣に付いていたものだろう。拾い物を献上というのも失礼なことかもしれないが物としてはとてもとても高価で稀少な物だから、持ち帰って必死に磨いたのだ。ほんの少しでも、喜んでもらえたらいいと思って。ふむ、と言ってアルケイン様が私から受け取った石を眺める。なんだかあまり反応がよろしくない気がした。
「ひ、必要無ければ仰ってください。私が処分致します」
「いや、良い物だ」
「え…」
「やるな、久しぶりに嬉しい気持ちになったよ」
うっすらとアルケイン様が笑む──気に入って下さった。喜んで下さった。笑って下さった──私に。
「も、勿体無いお言葉ですっ、それでは失礼致しますっ!」
がばっと頭を下げて、そのまま向きを変えて走り出す。顔を上げる訳にはいかなかった。顔を上げる訳にはいかなかったのだ。だって今、私の顔は真っ赤なのだから。気付かれてはいけないんだ、私みたいな一兵士が将軍に恋をしてるなんて。直属軍でもないくせに話しかけるだけでもおこがましいことなのだ。ましてや笑いかけてもらえるなんて、恵まれているにも程がある。充分だ。満足だ。私は幸せだ。
「待ちなさい」
「っ、わ」
疾走していた体ががくんと後ろに引っ張られた。襟首を捕まれたらしい。背中から倒れそうになったのが、何かにぶつかって止まる。大きくてやわらかくて、葡萄の香りがしたから──そこでやっとそれがアルケイン様だと気付いた。
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