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「君は死んでしまうでしょう?」
いつか、とアルケインは呟いた。目を細めながら私に手を伸ばす。頬を擦る白い手袋に、血が滲んでいた。瞼を親指でなぞられて目を閉じた。閉じた瞬間ぽたぽたと両目から涙が落ちていって、アルケインの服に染み込んでいく。
「この瞳を抉っても、この腕をもいでも、この足をちょん切っても、君は死んでしまうでしょう?」
僕を置いて、とアルケインは呟いた。今にも壊れそうなものに触れるようにそっと私に触れる。私は図太いのに、アルケインが触ったくらいで壊れたりしないのに。
「それなら、出来るだけ長く一緒にいたいんです」
私は──大切にされているのだ。愛されている。妄想でも虚言でも自惚れでもなく、確信として感じる。分かる。これでもし「愛してないよ」なんて言われたら、思わせ振りなことするなって言って首を切り落としてやる。
「でも、嫌だよ。私が嫌だよ。私のせいでアルケインが痛いのは、嫌だ」
死にはしなくても痛いのは痛いんだと前に聞いた。確かフェルトに踏みつけられてる時だったか、メリーメリーにぶん殴られてる時だった。死にはしなくても、叩かれたり斬られたりしたら痛いんだ、と。
「こんなもの、君が怪我することに比べたら大したことじゃない」
「アルケイン」
「何を隠そう、君の全ては僕の全て!」
堪らなくなって、アルケインが広げていた腕の中に落ちるように抱き着いた。体重がかかって重かったかもしれないけど、アルケインはそのまま私を受け入れて抱き止めてくれた。
「……だからね、君が出来ること、君にしてほしいことは、一つだけ」
背中に回された手が、ぎゅうっと私を捕まえて離さないと言った。
「出来るだけ長く、側に」
アルケインは不死である。私は未死である。別れの時が来ることを知りながら愛すのと愛されるのは、どちらが悲しいことなのか分からないけど──私達はそのどちらもで、多分それはどちらも恐ろしく寂しいことには違いない。
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なんて純粋な愛の告白!(……あと100年生きてやる)(それはそれは、嬉しいですね)
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