fortune-運命-

5/21
前へ
/59ページ
次へ
ほんの少し昔のこと。 金色の髪と碧い瞳の一人の少女がいた。 少女は、なにも持っていなかった。 たった2つ、美しい歌声と、優しい恋人を除いて。 少女は、その2つをとても大事にしていた。 少女の歌は、明るく、優しく、どこまでも透明だった。 周りの人たちを、その歌で幸せにしていた。 しかしある日のこと。 突然、少女の恋人が、少女から離れた。 少女は嘆き悲しんだ。 すると、今まで明るかった少女の歌は禍々しいものに変わり、優しい音色も、人々を不安にさせるものとなった。 そして、どこまでも透明だった声は、ローレライの岩の上、船を沈めるほど、深く、暗く、悲しい声になった…。 少女の歌は多くの船人の命を奪った。 少女は悲しんだ。 自分の大好きな歌が、人の命を奪うなんて…と。 少女は、その身に責任を感じ、ローレライの岩の上、ライン川へ飛び降りた。 少女は無事、旅立ったのだろうか。 それともまだ岩にとりついているのだろうか―― ローレライの岩の上、少女の歌が、少女の心を呼び覚ます。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加