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"今"で無い過ぎ去った記憶に、
未だ束縛されていたのか…
「うぅ…っ……」
情緒は少し収まってきたものの、
心のざわつきだろうか
キリキリと締め付ける痛み。
空っぽ、虚無の感情。
冷たさを残した春風が、
残酷にその勢いを増して
私を刺し吹きさらす。
当たる濡れた頬が
ちくちくと痛い…
寒い 空しい────
サリ、サリ、サリ…
(──!ウソでしょ…?)
それは紛れも無く人の気配。
そう思ったのもつかの間
サリ、ザッ…
「───ん…?
あれっ…君、どうしたの…?」
「あ…っ」
私は困惑を隠せないまま
まだ涙が渇かない顔をあげると
相手と目がバッチリ合った。
滲んだ視界に映ったのは、
麦藁帽子を冠った一人の少年。
小走りで近づいて来た彼は
しゃがんでこちらの様子を
心配そうに窺いだした。
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