人が音楽を魅了する

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   ――人類が、音楽を魅了した。    少女がその町を歩けば、心地良い音楽が絶え間なく耳に入る。  陽気な町並みに似合ったそのBGMは、ビルとビルの間を通り、アスファルトをスキップし、人々の肌に染み込む。  軽やかなピアノの高音は道行く人を笑顔にした。朗らかに響くフルートの音は、商店街に並ぶ店のシャッターを上げた。緩やかでリズムの良いパーカッションの低音は、花壇に咲く花々を満開にさせた。  これが全て、現実である。嘘も比喩も全くない、頬をつねれば痛覚走る現実である。  少女がレストランを覗けば、満席の客に囲まれて、数人のコックが愉快にキーボードを演奏していた。  そしてテーブルに置かれた食材が、音楽に合わせて踊り出す。宙に舞う、肉や野菜。更にキーボードの生んだ音が火へ変わり、それらに飛びついた。  空中で織り成す魔法の調理。強火であっさり炒めたソテーの出来上がり。湯気を立てた肉達は、テーブルの中心にある皿へ渦を巻いて盛り付けられる。  そして綺麗に整ったソテーへ、最後の音響。  キーボードのテンポがいちじるしく上がるのに合わせて、肉と野菜がソースをかけられたように色付き始めた。観客はよだれを垂らして目を輝かせる。最高潮にて曲が終わった瞬間、湧き上がる歓声。見せるのもサービス。  そしてコック達は客の席へソテーを配りに……。
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