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淡く薄く、生きていく。何物にも抗わず、強者に屈し、弱者と手を取り合う。私はそんな人間だ。
冷たいわけでなく、温かいわけでもない。名のない温度を持つ私。
もしその均衡が破られる時が来るとしたら、私は喜ぶだろうか、悲しむだろうか。
平凡であり続けたい私にとって、それはあまり望ましくないことだが。
箱が完全に起動しなくなり、その画面に黒しか写し出さなくなる時、ふ、と眼前にある窓ガラスの向こう側を見る。
私の視力では街灯の光が四方八方に散って、まるで花火のように見える。だから、私は視力を矯正しようと思わない。眼鏡はあるにはあるが、授業以外はかけていない。
人の顔が覚えられないなど不便な時もあるが、必要としている人が助けてくれるし、あまり見えない世界に慣れているせいかぼやけたほうが何かと都合がいい。
暗闇の中にぽっかりと浮かぶ月。ひたすら煌々と輝く姿はしっかりと目の中に入る。
何も裏切らない強い光。
満月になるころ不意にこのガラスの外を通って行く。
話さずとも雄弁に語るその輝きに口元を緩ませ、立ち上がる。
「また、一ヶ月後に」
一人つぶやいて部屋の電気を消す。
窓ガラスから入り込む月の光を浴びながら眠りについた。
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