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白兎とオオナムジ
遠いはるかなむかし。
伯耆の国(鳥取県)八橋の郡束積(コオリツカヅミ)の里に一匹の白兎がいた。
ある夏の日のこと、川へ出てみると銀のうろこをきらめかし、バチャバチャと楽しげに鱒の群れが川をのぼってくる。白兎はそれがあんまりおもしろいものだから、みてもみてもあきない。いつまでものぞきこんでいるうちに、もうじっとしていられなくなった。そこで、
「背中にちょっと乗せてくれ」
と鱒に頼んだ。鱒もおかしな兎だとおもったのだろうが、それでもいやともいわずに背中をむけたので、白兎はすぐにその背にまたがった。そうして冷たく透きとおる川波をわけてバシャバシャとさかのぼっていった。白兎にとって生まれてはじめてうっとりするような、ぞくぞくするような時間であったが、さかなの背に乗りつけない悲しさで、つかまった手がすべり、ざぶんと川の中へ転げおちてしまった。
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