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土手の方を見ると、騒ぎを聞き付けたのか人だかりができている。
少人数ではあるが、その人だかりは橋下付近の騒ぎに注目しているため、これ以上目立つのはまずいと思った不良達は退散するのが懸命だと判断したのだ。
「ちっ。まぁいいや」
亜希の胸ぐらを放してそう吐き捨てると、不良達は何事もなかったかのように土手を登り去って行った。
土手を登る不良を見てギャラリーも散った。
「はぁ~…」
危機が去ってほっと胸を撫で下ろすも、結局は左頬に一発殴られて痛い思いをする羽目になった。
だから、余計なことには首を突っ込みたくないんだよ、と亜希は思うのだった。
痛みが走る頬を押さえながら高宮の元へ歩いて声をかける。
「大丈夫か?」
返事はない。
「…立てるか?」
力なく地面に座り込んだ高宮に手を差し出して立たせた。
ムクッと立ち上がる様子を見て、特に怪我はしてなさそうで普通に歩けるみたいだし、取り敢えずは安心する。
「じゃあ、俺は帰るから。…今日はお互い災難だったな。帰りも気を付けろよ」
それだけ言って亜希は土手を登り、寄せてあった自転車にまたがって颯爽と家路へとペダルを漕いでいった。
(それにしても高宮の奴、いつも通りの無表情だったな。余裕がなかっただけか、そろともある意味冷静だったのか?)
もうほとんど沈んだ夕陽に変わって、夜空にはぽつぽつと星が瞬き始めていた。
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