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―――うたいたい?
何でそんな事を言うんだ?
だって今までアンタ、歌ってたんだろ?
なのに、うたいたい、って。
桜の木に両手をついて、もたれる様に身体を近付ける、アイツ。
少し経って、またあの歌が聴こえてきた。
満開の桜から、花びらが風に乗って落ちていく。
薄紅色のそれは、アイツの真っ白な髪の上に静かに触れた。
ひらひら、ひらひらと。
ゆらゆら、ゆらゆらと。
何枚もの桜の花びらが、アイツに降りかかっては地に落ちていく。
その神々しいともとれる、美しい光景に、俺は見惚れていた。
「お願い…俺に、うたわせて。
うたい、たいんだ……うたい、た、い」
途切れ途切れに聴こえてくる、アイツの小さな声。
真っ白な髪で遮られていた横顔から覗く、大きな瞳。
綺麗な、澄んだ、そら。
ただ、自然と、
触れたい
そう、思った。
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