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春の少し肌寒い空気を吸い込むと、身体の中から体温が奪われていくのが分かる。
軽く身震いすると頭上から何かが降って来た。
「桜……?」
薄紅色の小さな花びら。
それが春の風に乗って屋上に舞い上がってきていた。四階建てのこの校舎より、少し低めの大きな大木。
昨日、アイツがいた、桜の木。
「て言うか、蒼空君何処にもいないじゃん」
体調不良で保険室?
それともトイレ、とか。
まあ、どの道これ以上は探すのは無理っぽいけど。
あの担任に会ったら授業に出ろって煩いだろうしな。うん。
「…にしても広いんだ、ここ」
いつまでもつっ立っているだけなのは詰まらない。
入り口の裏手に回ってみると、少し開けた所にそれはあった。
「……温室?」
小さくも大きくもない、綺麗に掃除の行き届いた外観。
うっすらと見えるのは、何かの花っぽいけど。
何と無く興味が湧いて、手は自然とドアノブに伸びている。
ガチャリと軽い音を立てて、簡単にドアは開いた。
「この学校どんだけ不用心なわけ……」
屋上も開くは温室も開くは。
どうなってるんだこの学校は。
もう呆れを越えて笑えてくる。
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