作家ジン=リッキーの初仕事

22/37
19205人が本棚に入れています
本棚に追加
/562ページ
「おぉ、これは申し遅れました。 この者はフィディック城下町で記事屋を営んでいる、私の親友のジンと言います。 此度は民衆に竜人を正しく知ってもらうための本を彼が書くことになり、皆さんのお話を聞きに来たのですよ。 決して素性の怪しい者ではありませんからご安心を。」 シャルルはクロウの言葉を受け、後ろで佇んでいたジンの腕を掴んで竜人の前に連れてくると、ジンのことをつらつらと紹介する。 普段なら一見して恐面の印象を与えかねないジンの顔だが、今は竜人を初めて見たことと、いきなり前に引きずり出されたことで戸惑いの色が表れ、逆に気弱な雰囲気を放っている。 「……あ、ども。 よ、よろしくです……。」 ジンとは思えない程の歯切れの悪い挨拶。 竜人達からの視線を一身に受けたジンは平常心では居られなかったのだ。 先程までは人間の村と変わらないと思っていた竜の里なのに、竜人が実際に目の前に居ることで一気におとぎ話の世界にでも放り込まれた感覚に陥っていた。 ジンは異種族差別など持っていないが、それでも見慣れない竜人に対しては少なからず恐怖心を覚える。 だが幸いにも竜人達はそんなジンの反応に、無理もない、と寛容な心で接する。 「俺達を見たことないんだからしゃーないだろ。」 「ちょっとの間ここに居れば、嫌でも慣れるわよ。」 「あのアサヒでさえ、ちょっと時間が経ったら普通に俺らと喋ってたもんな!」 「竜人と人間の距離を狭めてくれる本を書いてくれるんだから、みんなで協力するぜ?」 頼りなげに見えるジンへ次々と言葉を掛ける竜人達。 本の創作にも皆前向きに捉えているらしく、早速協力を申し出る者すら現れている。 (こ、これが竜人……。 心は正に人間……いや、人間よりも何だかあったかいな……。) あまりに拙い挨拶だったにも関わらず、初対面の得体の知れない自分をこんなに気に掛けてくれる竜人を直接感じたジンは、彼らの心に人間以上の温かみを覚えた。 竜人の外見だけで萎縮してしまった自分が恥ずかしくもある。 正直まだ見慣れないのだが、彼らの心に触れたことでジンの緊張感や恐怖心は徐々に薄らいでいくのだった。 「これが私が敬愛して止まない竜人なのだよ、ジン。 私と共にこれから竜人をもっと知ろうではないか!」 シャルルのこの声が締めとなり、クロウ達は改めて二人の竜の里来訪を歓迎するのだった。
/562ページ

最初のコメントを投稿しよう!