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「これは何の冗談かしら? ……咲夜」
目の前でニコニコと擬音が付きそうなほど微笑んでいる咲夜に、霊夢は冷たい視線と怒気を含ませた声音で問い掛ける。
「何の冗談って……別に冗談のつもりはないわよ?」
しかし、中級妖怪程度なら脅えて逃げ出すであろう視線と声音で問われた咲夜自身は、そんな事関係なく白々しい返答を寄越した。
何時もなら一発ぶん殴りたい所だが、今の霊夢にはそれが出来ない。
何故なら―――
「じゃあ何で私を縛り付けてるのかしら?」
そう。霊夢は今、目の前の咲夜の手によって、天井から伸びる、腕に括り付けられた頑丈な紐で吊るされている状態だからだ。ご丁寧に足まで同じ紐で拘束されている。
この状態になったのは昨晩だろう、と霊夢は推測する。
昨日の昼頃、珍しく咲夜が一人で博麗神社へ訪れたのだ。基本的にあの吸血鬼と一緒にいる彼女が一人で、と言う所に疑問を持った霊夢だが、彼女とて休みや休息はあるのだろうと考え、深い検索はしなかった。
取り敢えず、わざわざあの館から来た彼女を追い返す訳にもいかないので、何時もみたいにお茶を出し縁側で一緒に啜る事にした。
―――ここまでだ。ここまでなら別に良かった。
この後、咲夜が『そろそろ帰るわ』と言ったので、それなら見送りくらいならしようかと腰を浮かせた瞬間、いきなり視界と思考が暗転した。
そして今の状況だ。
「あら? 勘の鋭い貴女が分からないの?」
白々しい。
頬に片手を添えて、いかにも意外です。の表情をニコニコ微笑んでする咲夜に、霊夢の怒気が沸き上がる。
「えぇ、解らないわね」
だが、あくまでも霊夢は冷静に怒気を抑え込む。今の状況で取り乱せば、咲夜の思う壷であると考えたのだ。
「これは……いいえ今の貴女はどう見ても"異常"よ。それとも貴女の主が命令したのかしら?」
続けて、少しでも相手の内を探るためにカマを掛け始める。
言葉を選び慎重に、咲夜の表情の変化を見逃さずに、少しずつ情報を引き出そうと。
「それとも―――」
「関係ないわ」
再びカマ掛けをしようとしたのだが、それよりも先に咲夜が反応した。
そう、ニコニコの微笑みから、"憤怒と嫉妬"の表情に変えて。
「お嬢様も、パチュリー様も、妹様も、美鈴も、小悪魔も、メイド達も、誰にも関係ないわ」
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