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『天神橋ハイツ――102号室』
「無い……無い無い無い……やっぱり無い!」
大阪府大阪市、市内にある天神橋ハイツ。
ハイツとは名ばかりの、こじんまりとしたアパートのような建物。
住人は、大阪府外からやって来た者がほとんどであり、出身地は様々だ。
そんな特に目立った点もない、いたって普通な集合住宅である天神橋ハイツの一室にて――兵庫県出身、二十歳の大学生である川上光一は、部屋の中の引き出しという引き出しをこれでもかと言うほど開け放ちながら叫んでいた。
「財布が無ぁぁぁあああい!!」
そう、川上光一は現在、生死を分けるかもしれない状況に立たされている。
貯金を一切していない川上にとって、財布を無くすということは、全財産を無くすに等しいのである。
つまり川上光一は、今この時――完全に一文無しなのだ。
――くそ、くそくそくそおお!
なんで見つからないんだよ!
一体何がどうなってこうなってんだよ、昨日までちゃんとあっただろ、俺の財布ちゃん!
躍起になって、ベットの下の収納スペースまでひっくり返し財布を探す川上だが、それでも見つからない。
そもそも、この天神橋ハイツは、一部屋がそれほど広くなく、探すような場所も限られているのだ。
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