孵化

10/10
前へ
/631ページ
次へ
するとその六芒星の中央に、どんどんその炎ごと紋章が引き込まれていった。そして引き込まれていくごとに、その紋章の全貌が分かる。風の紋章は風の波をかたどった、曲線が三つ並んだ模様だった。そして足下の魔法陣が神々しく輝き、その杖に引き込まれていった。光が消えたのだ。 「やりましたね!」 そいつはそう言うと、俺の方に笑顔で向かっていった。俺もそいつを見て、達成感を露わにした笑顔を見せた。 「うん、この紋章はポネンテっていうんだ」 すると未だにシャッターを押し続けている辰が、俺に近づきこう言った。 「最高だったぜ、あんなにど迫力の写真撮ったの初めてだ!」 そう言うと、俺に笑顔を見せた。そしてこう続けた。 「次紋章を封印するときは、俺を呼んでくれよな」 するとそいつが、少し厳しい顔をしてこう言った。 「だめですよ! 紋章収集に他人は巻き込めません!」 すると辰は、そいつの肩をたたきながらこう言った。 「まぁそんなに堅いこと言うなって」 いかにも気楽そうだった。俺はそれを見ると、そいつにこう言った。 「そういえば、君の名前は?」 俺はそう聞くと、そいつははっきりこう言った。 「まだ僕生まれたばっかりなんで、名前は持ってません」 そう言うと、少し寂しそうな顔をした。俺はそれを見て少し悩むと、ぽっとひらめいた。 「…アルト、何てどうかな?」 するとそいつははっとなって、俺の方に顔を寄せた。 「僕の…名前ですか?」 俺はゆっくり頷いた。するとアルトは、笑いながら俺に飛び込んできた。俺はアルトにこう言った。 「ハッピーバースデー、アルト」 そのときシャッターが、優しく切られた。 「見つけました、寮の屋上です。どうやらこの寮の生徒らしいです」 誰かが、俺たちを見ながらそう言っていた。すると携帯電話から、小さな声が聞こえてきた。するとその人物は何かを了承したように軽く頷くと、こう携帯電話に言った。 「分かりました。それでは強奪します」 劉の杖を。 その人物はそう言うと、携帯電話を切った。
/631ページ

最初のコメントを投稿しよう!

572人が本棚に入れています
本棚に追加