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いつものように少し明るめの部屋で、ある人物はいつものように片手に杖を持ち、瞑想めいたことをしていた。本人にはいつものことだが、その人物がその杖を前にかざすと、その人物の足元に魔法陣のような幾何学模様が現れる。そして一つの模様を杖で空中に描くと、その模様が空中に残り、赤く光る。そして本人はいつものことだが、その空中の模様に杖をたたきつけた。
そして模様がさらに明るく輝き、その周りに炎がまとう。それは踊っているようにも見えるが、その人物はつらそうな顔をしている。そして空中の模様が消えると、その人物は膝に手をつき、過呼吸をし始めた。そしてこう過呼吸混じりにこう言った。
「はぁ…、やっぱり俺はもう、年かな…」
見た目は二十代前半のその人物がそう言った。そして本人にとっていつもの出来事はこれで終わりなのだが、今日はそうでもないようだ。
その人物は一つの妙な気配に気がついた。うちのベランダだ、とその人物は思った。そしてその人物はベランダに行くと、そこには弱った赤い竜がいた。その人物はあまり驚いていないようで、その竜にこう言った。
「大丈夫かい?」
その竜はその人物の顔を見て、こう弱々しく言った。
「もう私は、この世界では長くない。だからここに来て…」
「分かってるよ、丁度いいときに来たね君。運がいい」
その人物は笑いながらそう言うと、その竜が持っている卵を渡された。そしてそれを見ると、その人物はこう言った。
「この子は、親代わりが必要だね。あいにく俺も、千は超えたから無理。だから」
送ってあげるよ。
すると竜は、その人物にこう頭を下げた。
「ありがとうございます、東海林さん」
すると、東海林と呼ばれたその人物は竜に視線を移した。そしてこう言った。
「今の俺は東海林じゃない。ただの紋章師」
そう言うと卵を優しく床に置き、杖を前につきだして再び瞑想を始めた。そして杖を前に突き出すと、足元に魔法陣が現れる。東海林は空中でさっきとはちがう模様を描き、それを叩いた。そしてこう言った。
「転生してくるよ」
その言葉に深い意味はなかったが、少し経つとそこは眩い光であふれた。そのベランダの物が一瞬何も見えなくなるくらいだ。しかしその光がなくなると、東海林もその竜も、卵もなくなっていた。
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