16人が本棚に入れています
本棚に追加
白装束を纏った小学校低学年ぐらいの女の子だ。左胸に突き刺さっているのは刀だろうか、黒色の柄(ツカ)が見える。
これは普通ならば死んでいるが、あらゆる可能性が脳裏を駆け巡った。最悪、犯人は薫姉かもしれない。
「……くそっ」
しかしおかしな点もある。心臓を一突きにされているはずなのに、血痕が一切見当たらないのはどういうことだ。白装束も眩しいほどに白色である。
死んでいるかどうかは別にして、幽霊とやらでもない。
黒髪おかっぱの頭をぐったりと伏せた彼女に、恐る恐る近付いてみる。
幽霊の類ならば見飽きているが、あいにくと人間の死体を見たことはなく、心臓が激しく拍動する。
『カズマが喰われル、カズマが喰わレるゾ』
卑しい笑い声が辺りに響き、恐怖を助長する。それでも放置しておく方が恐ろしく、下手をしたら御用だ。
頼りの薫姉が居ない今、俺が勇気を振り絞るしかない。
決意とともに拾った枝で腹部をツツいてみたが微動だにしない。
塀の向こうの喧騒を糧にもう一度、と指先に力を入れたと同時、少女の大きな黒眼が俺を見た。
思わず枝を落とし、口を開けたまま表情を凍らせてしまう。
何をどうすればいいのかが解らず、ただ彼女と見つめ合う無為な時間が幾ばくか流れたその時、ドクン。と何かの脈打つ音が大気に浸透した。
“彼女は生きている”。
「ちょ――っ! 大丈夫か!?」
死んでいたらそれはそれで窮状なのだけれども、生きているならば生きているで相当戸惑ってしまう。
まず初めに何をすべきかとか、救急車は何番だっけかとか、ありとあらゆる選択肢と知識が錯綜する。
そんな中で直ぐにでも剣を抜いてやりたい衝動に駆られたが、そんなことをしても血が噴き出るだけで何の解決にもならない。
取り敢えず、テンパりながらも悪手を打たずに済んだことにホッとする。
まずは一つ、深呼吸を挟む。
「電話してくっから少しの辛抱な!?」
携帯電話という高機能な通信手段を持たない俺は、縁側へと全速力で駆け抜けた。
――のだが、
「待て」
凛と抜ける鈴の音のような美声に肩を掴まれて、立ち止まる。
「うおおぅ、もしや見えておるのか?」
「……は?」
最初のコメントを投稿しよう!