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「見えてるもなにも……」
改めて目を凝らしてみたが疑いの余地などない。彼女は確かにそこに居る。
一昔前の俺ならば死者と生者の区別もつかなかったが、今は違う。
猫と犬を判別するよりも容易く、その違いを見抜ける程度には成長したのだ。
断言しよう。彼女は幽霊の類ではなく、見えるのが当たり前なのである。
「胸に刀突き刺さってますよ?」
「うむ。容赦のない一撃じゃった」
「随分と元気なんすね?」
「当然じゃけん。人間如きがあちきを滅せられるはずがなかろうに。封印するので手一杯じゃ」
「あぁ――……、その柄が電波を受信するアンテナ? 救急車呼んでくるから後少し頑張れよ」
既に片足をあちらの世界に突っ込んでいる雰囲気ではあるが、意識はハッキリとしているようなのでひとまず安心した。後はプロに任せるべきだろう。
縁側に上がろうと足を掛ければ、またもや彼女が呼び止めてくる。
「コレ! 抜いてはくれぬのか?」
「抜いたら死ぬっての。頼むから流血沙汰は起こさないでくれ」
「血などとうの昔に枯れたわ。だから早よう解放してくれぬか?」
「少し落ち着けよ。マジで」
異物を除去したい気持ちは痛いほどに解る。もしも俺が彼女の立場ならば、泣き叫び懇願したに違いないがそれは間違いでしかない。
何度も言うが、剣を抜いた瞬間に鮮血が溢れ出すに決まっているのだ。全財産を賭けたっていい。
「あちきは落ち着いているぞ? そりゃあ最初は驚きもしたが、もう慣れっこじゃ」
「ハイハイ。そのまま意識を保ってろよ」
「待たぬか」
今度は構わず進む。今はまだアドレナリンとやらのお陰で元気なのかもしれないが、いずれ喋ることも困難になるはずだ。
一刻も早く助けを呼ぶべきなのである。
「薫はもうちっと話てくれたのに」
だというのに、その名前が俺を引き止めるのだった。
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