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正直に言おう。薫姉は初恋相手でありライバルであり親であり姉であり師匠でもある人だ。つまりそれぐらい俺の中で彼女の存在は巨大なので、その名前を出されてしまうと非常に弱い。
脚が鉛にでもなったかのように重くなった。
「薫姉を知ってるのか?」
「知ってるも何も、あちきの封印を解かぬようにとこの地を買ったほどじゃけ。よう知っちょーよ?」
踵を返して女の子の元へと向かう。
彼女を支えているのは一本の刀のみ、そして血が流れ出てる様子は見られない。
「……幽霊なのか? お前」
これでも割とプライドは高い方なのだ、犬と猫を見間違えるようなことがあればさすがに相当凹む。というか、既に俺のテンションは大分落ちていた。
薫姉が居なくなったからではなく、薫姉がこの少女のことを何一つとして話してくれていなかったことがジンと痛い。
「そんな低級な輩と一緒にされては迷惑じゃ。大妖怪白面金毛九尾の狐の娘と言えばあちきじゃ!」
「――あ、そ」
「むぅ、信じておらぬな?」
「正解。妖怪はダメだ、信じられない」
少なからず悩んでしまった自分に全力で後悔した。悔しいがコイツはユウレイの類だ。救急車を呼ぶ必要もなければ、助け出す必要もない。
このまま放置するのが最善手だろう。
「幽霊は信じるのにか?」
「そうだよ? あいにくとそちらさんには幼い頃から悩まされてるんでね。嫌でも信じるしかないんだよ」
どちらかと言えば否定派だ。否定派なのだけれども、見えてしまうからなあなあと肯定せざるを得ないというのが現状である。
大体、今時霊魂やら妖怪やらは流行らない。
仮に俺の眼が彼らを映し出さなければ肯定派を鼻で笑ったことだろう。
リアニストを気取るわけではないが、高校生にもなってオバケはない。その上彼女は妖怪で金毛九尾の狐の娘? 悪いが俺の浅く狭いキャパシティーでは受容不可能だ。
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