16人が本棚に入れています
本棚に追加
「とにかく抜いてたもれ」
『喰ワれる喰わレる』
魑魅魍魎が騒ぎ出す。姿すら見えぬ彼らも、言われてみれば妖(アヤカシ)の類か。
だからって信じたりはしないけども、可哀想ではある。それに騒がれても迷惑なので、
「それなら取引だ。その剣を抜いてやるから、直ぐに何処かへ行けよ?」
「うむ、約束しよう」
朗らかに笑う少女に不満たっぷりの視線を送り、柄に手を掛けて一抜き! の、つもりが、どうやらかなり深く突き刺さっているようでビクリともしない。
輪唱のような魍魎どもの声に苛立ちながら奮闘すること五分弱、ようやくぐらついてきた。
『ヨミが蘇ルゾ』
『喰ワれる喰わレるカズマが喰わレる』
ここまでくれば後は一息だ。腕力だけではなく重心を後ろに移して引っこ抜く。
――次の瞬間響いたのは、俺のケツが地面に衝突する音だ。
無様な格好だがしかし、手には古びた錆刀が握られており、視線を上げれば解き放たれた女の子の姿がある。
大きな黒眼は宝石のように煌めき、薄い顔立ちはけれども白皙を際立たせる相乗効果の役割を果たしていた。
やや低い鼻と薄い紅色の唇。
少女という形の完成系とも言える愛らしさは、時の流れを拒絶したくなるほどに完璧だ。
永遠(トワ)に少女で居て欲しいと誰もが願うようなその姿に、思わず息を呑んでしまう。
頭頂部に生えた金毛(キンモウ)の獣耳という異形すら、装飾に見えてしまうくらいだ。
「ファぁぁー」
と、存分に伸びて自由を満喫し、そして彼女は文字通り俺に牙を向くのだった。
「助かったぞ小童。その褒美として妾(ワラワ)の糧にしてやろう」
最初のコメントを投稿しよう!