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彼女は鋭い爪を立て飛びかかって来た。
喉元を引き裂かんとするその振りをかろうじて躱し、次のモーション前に立ち上がる。
しかし想像よりも長い攻撃範囲だった。
首筋を温い何かが這う。
少女は振り抜いた右腕を引き戻すことはせず、その勢いを利用した回転で再び俺の命を毟り取りに来る。
再度放たれた一撃は洗練された軌跡を描き、俺の動体視力をやや上回る速度で到達した。
必殺を狙った頸動脈への一閃は、一文字切りを連想させる程に鮮烈なものだ。
――が、ただそれだけである。
確かに目で追えるスピードではないが、その程度の攻撃ならば躯(カラダ)だけで反応出来る。
「薫姉より全然遅い――っ!」
となれば事は容易い。襲来する少女の右腕を蹴り上げて軌道を反らすと、バランスを崩した本体にそのまま容赦なく蹴りを見舞う。
華奢な躯は大袈裟に弾け飛び、幹へと逆戻りする。
「――いったァァ……」
打ちつけた後頭部を両手で抑えて、涙目で俺を見上げてくる。
これで形勢逆転だ。
「本気で蹴ったな!?」
「当たり前だろ! 本気で殺そうとした奴に言われたくないね」
「冗談じゃろ、このたわけ!」
「冗談でいちいち傷つけられてたら堪らないね!」
熱を帯び始めた傷口に顔をしかめる。元より我慢強くない俺は当然のように痛みには弱い。
大人気ないとも思ったが、妖相手に人間の年齢は関係ないだろう。そもそも俺はまだ立派な子供だ。
「試したのじゃあ……! 大体、あちきの本気はあんなもんじゃありんせん」
「嘘こけ。アレは目がマジだった」
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