序。

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 世の中には努力して出来ないことはないって言うけど、ありゃ嘘だ。絶対嘘だ。なぜなら俺の今、このおかれてる状況。これは努力してもどうにもならない。なりようがない。 俺が今、どんな状況におかれてるかって? しょうがない、それじゃあ、話してやろう。  そう、あれは先月のことだ。どっかの桃太郎とかいう奴が、犬・猿・雉を家来にして、鬼が島の鬼退治をして帰ってきたと言う。それだけでも突っ込みどころ満載なのに、その桃太郎って奴、桃から産まれたらしいじゃないか。俺にとってはその時点で既に不条理だ。そんな奇跡の出自を持っている奴なら、鬼退治ぐらいしてこなすだろう。ってゆーか、そもそも俺は『鬼』という物の存在自体信じてはいない。鬼が島なんて島だって、聞いたことがない。よっぽど馬鹿で乱暴を働く不貞の輩の集団のことを鬼が島とでも言っていたんじゃないだろうか。もしくは盗賊団の集まりとかな。噂じゃ、金銀財宝まで持ち帰ってきたって言うから、盗賊団の可能性大だ。ってゆーか、そいつらの財宝を奪ってきちゃうなんて、どっちが盗賊団なんだかわかりやしない。まぁ、いずれにしても、地元の人々は困っていたようだから、ありがたいことなんだろうけどな。  ところが。話はそれで終わらなかった。その話を聞きつけたうちの親父が、対抗心のようなものを燃やし始めたのだ。そして、それは、道場(言い忘れていたが、俺の家は、結構有名な剣道の道場なのである)の次男である俺に、ムチャ振りをおしつける結果となった。すなわち「おまえも何か武勇伝を立てて来い!」と。そんなこと言われたって、鬼とやらは既に桃太郎とやらが退治しちまってる。いや、退治してなくっても、普通の人間の俺にいきなり悪の集団に飛び込んで退治しろって言うのが無理なんだけどな。どうせだったら、道場を継ぐべき、長兄が修行も兼ねて旅に出るべき、と思った人もいるだろう。
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