3719人が本棚に入れています
本棚に追加
「てかさ、あんな純粋無垢な人間なんかこの世にいねーだろ。――普通は、な。」
もしいたとしたら、そいつは絶対に壊れてる。
どこか投げやりのように慎介はそう言い捨てた。
「でもさ、いたんだよ。何も知らなくて真っ白で馬鹿みたいに素直だった奴。」
思い出すかのような仕種
懐かしい、愛しい者を見るような仕種
そのどれもに、目が離せない。
ただ、純粋に綺麗だと思ったんだ。
そんな作り物じゃない自然の美しさを、慎介は持っていた。
「俺の弟は、すっげー綺麗だった。」
“だった”という言葉に少し引っかかる。
それは過去を意味する言葉だ。
つまり……
「でも、弟は壊れちまったんだ。」
綺麗だった頃の弟はもういないということ。
「初めて見たヒトの汚いところを、あいつは受け入れられなかった。
自分を否定されたあいつは、だんだんと壊れていったんだ。」
今にも泣き出しそうな声音。
しかし、それを必死で抑えて、一人で全てを背負い込もうとしている慎介はとても綺麗で、今にも崩れてしまいそうなくらいに儚かった。
最初のコメントを投稿しよう!