第三章

7/10
前へ
/74ページ
次へ
「てかさ、あんな純粋無垢な人間なんかこの世にいねーだろ。――普通は、な。」 もしいたとしたら、そいつは絶対に壊れてる。 どこか投げやりのように慎介はそう言い捨てた。 「でもさ、いたんだよ。何も知らなくて真っ白で馬鹿みたいに素直だった奴。」 思い出すかのような仕種 懐かしい、愛しい者を見るような仕種 そのどれもに、目が離せない。 ただ、純粋に綺麗だと思ったんだ。 そんな作り物じゃない自然の美しさを、慎介は持っていた。 「俺の弟は、すっげー綺麗だった。」 “だった”という言葉に少し引っかかる。 それは過去を意味する言葉だ。 つまり…… 「でも、弟は壊れちまったんだ。」 綺麗だった頃の弟はもういないということ。 「初めて見たヒトの汚いところを、あいつは受け入れられなかった。 自分を否定されたあいつは、だんだんと壊れていったんだ。」 今にも泣き出しそうな声音。 しかし、それを必死で抑えて、一人で全てを背負い込もうとしている慎介はとても綺麗で、今にも崩れてしまいそうなくらいに儚かった。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3719人が本棚に入れています
本棚に追加